
山形県長井市の豊かな自然の中で育まれる「行者菜」。
行者菜は、何度も収穫できる「ニラの多収穫性」と、深い香りと味わいを持つ「行者ニンニク」を掛け合わせて誕生した野菜です。
現在は東北や北海道の限られた地域でも栽培されていますが、長井市では『生産者は長井市民であること』『長井の土地で栽培すること』という独自の厳しい基準を設け、地域ブランドとして厳格に管理しています。
そのため、市場に出回る量も限られている非常に希少な存在となっています。
今回、私たちは行者菜生産者の横澤芳一さんを訪ねました。
行者菜が長井市を代表する特産品となるまでには、横澤さんの情熱と挑戦、そして数々の不思議な縁がありました。
厳しい叱咤から始まった「新しい農業」への道

横澤さんが新しい野菜作りに取り組むきっかけは、今から30〜40年以上前に遡ります。かつて米中心の農業を行っていた横澤さんはテレビ番組の企画で、同じく農業を営んでいた遠藤孝太郎さんと共に、宮崎県綾町の郷田町長(当時)を訪ねました。その際、「100姓(百姓)は米だけでなく、いいものを作れる可能性がある。米しか作らないのは怠け者だ」と、町長から4時間にも及ぶ厳しい説教を受けたのです。
この言葉に火をつけられた横澤さん達は、無農薬栽培の米作りや伝統野菜「花作大根」の復活に取り組み始めました。
その活動が専門誌『現代農業』に取り上げられたことが縁で、宇都宮大学で開催された「大根サミット」に招かれることになります。
開発者との運命的な出会い

そのサミット後の懇親会で声をかけてきたのが、行者菜の開発者である宇都宮大学の助教授でした。
助教授は「北海道で食べた行者ニンニクを年中食べられるようにしたい」という想いから、行者ニンニクとニラを交配させた新しい野菜を開発したばかりでした。
当初、助教授は「行者ニンニクを知らない素人には作らせない」と頑なでしたが、横澤さんたちの熱意に触れ、新聞紙に包んだ行者菜を託してくれました。持ち帰る車の中は、その強烈な香りで満たされていたといいます。
「見た目はニラ、価格は高い」苦難のスタート

横澤さんや遠藤さんを含む、長井市の有志7名、1人わずか1アール(約30坪)の小さな面積から始まった試験栽培でしたが、最初は苦労の連続でした。初めて直売所に出したとき、見た目がニラとそっくりなのに価格が高かったため、全く売れなかったのです。

「ニラに埋もれてしまってはダメだ」と考えた横澤さんたちは、東北芸術工科大学の協力を得てキャラクターや専用のパッケージを制作し、独自のブランド化を推し進めました。
さらに、料理研究家の小野先生と共にレシピを開発し、地道なPR活動を続けました。

こうした努力に加え、長井の風土も大きな味方となりました。
もともと長井市周辺は行者ニンニクが自生・栽培されている地域であり、その親の生育に適した環境が行者菜にも最高の味わいをもたらしました。栽培適地だからこそ引き出されるその品質が、徐々に消費者の心を掴んでいったのです。

栄養の宝庫、そして次世代へ

行者菜は、疲労回復などに効果があるとされるアリシンが、ニラの約2倍、ニンニクの約3倍も含まれおり、高い栄養価を誇ります。食べた後は体がポカポカと温まり、血流が良くなるのを実感できるほどです。
驚くべきことに、香りは強いものの、食べた翌日にニンニクのような臭いが残りにくいという不思議な特徴も持っています。

この希少な野菜を絶やさないよう、長井市では「行者菜100人プロジェクト」を立ち上げ、市長も巻き込んだ地域ぐるみの振興が行われてきました。
「生産者は長井市の人、作るのも長井の土地で」という厳格な条件を守り続けているため、他市町村からの要望があっても安易に広めることはせず、「長井だけの味」としての価値を大切に守っています。

現在、長井市では約30名の生産者がこの希少な野菜を守り続けています。
横澤さんは「若い人にも取り組んでほしい。面積は小さくても、しっかりとした収入につながる野菜だ」と語り、次世代への継承にも力を入れています。
長井の生産者たちが20年の歳月をかけて繋いできた物語の続きを、ぜひあなたの食卓で味わってみてください。今しか出会えないこの香りと力を、どうぞお見逃しなく。
生産者おすすめの食べ方
- 行者菜ごはん: 刻んだ行者菜を、ごま油、甘辛いタレ、ごま、かつお節と和えてご飯にのせ、生卵をトッピングするのが最高に美味しい食べ方です。
- スタミナ料理: 餃子やハンバーグ、チヂミの具材にすると、香りが引き立ち食欲をそそります。
- 調味料: 「行者菜しょうゆ」や「行者菜みそ」に加工すれば、冷奴や冷しゃぶ、麺類の薬味として楽しめます。

レシピ
行者菜餃子

【材料(2~4人分)】
豚ひき肉…200g
行者菜…1/2束
長ねぎ…1/2本
ぎょうざの皮…1袋
ごま油…大さじ2
A
塩・こしょう…少々
鶏ガラスープの素…小さじ1
ごま油…小さじ1
つけだれ
しょうゆ:酢=2:1
※刻んだ行者菜を加えても美味しく召し上がれます。
アレンジ
※辛いものがお好みの方は、Aに豆板醤を加えるのもおすすめです。
行者菜チヂミ

普段作られているチヂミの具材に、ニラの代わりやお好みの野菜と一緒に行者菜を加えるだけで、美味しくお召し上がりいただけます。
生産者おすすめ 行者菜ごはん

生産者おすすめの食べ方に、韓国のりをトッピングとして加えました。
鮮度の良い行者菜は、生のままでも美味しく召し上がれます。生が気になる方は、さっと湯通ししてから加えていただくのもおすすめです。
行者菜のスタミナ丼

【材料(2人分)】
豚ひき肉…200g
行者菜…1/2束
ごま油…大さじ1/2
ごはん…2杯分
卵…2個(半熟に仕上げるとより美味しく召し上がれます。)
あらびきこしょう…適量(仕上げ用)
A
しょうゆ…大さじ1
みりん…大さじ1
砂糖…小さじ1
オイスターソース…小さじ1
にんにく(チューブ)…2cm
行者菜ダレ

【材料(4人分)】
行者菜…1束
しょうゆ…大さじ3
米酢…大さじ1
砂糖…小さじ1
白ゴマ…大さじ2
ごま油…大さじ1
しょうが…1かけ
【作り方】
行者菜はなるべく細かく切る。ボウルに入れて、調味料と摩り下ろした生姜を入れて混ぜ、冷蔵庫で2時間ほど置いておく。
豚のしゃぶしゃぶや冷奴、鶏のから揚げなどにかけてお召し上がりください。
